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2006年10月 5日 (木曜日)

「先入観があり聞き間違えた」と言われた被害者

奈良地裁で行われたとある刑事裁判で、「子供を誘拐するぞ」と脅迫されたとの公訴事実で起訴された人の無罪判決がありました。

言った言わないの世界ですので、証拠は当事者の証言しかなく、どちらの証言が信用できるかというところがポイントとなります。

否認事件の被告人は「相手の聞き間違いだ」「でっちあげだ」との弁解をする場合が多いですが、常識で考えれば日のないところに煙は立たず、被害者に何らかの動機等がない限り、被害者側の言い分を信用すると思います。

裁判例でもそうで、被害者の証言を採用し、被告人の弁解を排斥する可能性のほうが圧倒的に多いです。

本件では、被告人は捜査段階で自白しており、どちらが信用できるかは明らかであると考えられていたようです。

しかし、判決は被害者が先入観をもって聞き間違えた可能性があるとして、被告人の主張を採用し、無罪としました。

詳細な供述内容を見てみないとなんにも言えませんが、被害を受けたと主張する人が「お前は先入観をもっており、聞き間違えた可能性がある」と裁判所に指摘されてどう思うのでしょう?

仕事とはいえ、真実はクロの被告人の言い訳に従って、善良な被害者の証言を嘘だと指摘するのはやりたくないことです。

しかしながら、常識で考えてありえないことが刑事裁判の中にはごくたまにまぎれこんでおり、これを信用して救ってあげられるのは弁護人しかいません。

弁護人が常識の枠内で物事を考えて「お前の言ってることは信用できんからお前は有罪」というようになれば司法制度は成立しません。

今年卒業予定の修習生のうち36人は刑事弁護で落第したと報道されていますが、おそらくこのような考えで起案したから落第したのでしょう。

確率的には低く、ほとんどの場合被告人の弁解につきあわされて被害者を徒に傷つけるだけの仕事になってしまいかねないですが、わずかな可能性の真実案件を見いだすために弁護人は精一杯被告人を信じてあげることが大事です。

今日のような件を見逃さないことも、法曹の責務といえます。

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